「イギリス」と「アメリカ」は同じ英語圏でも大学の制度は大きく異なっています。
私は学部生の時にアメリカに1年間留学し、大学院ではイギリスへの進学を決めました。
そのため、海外の大学院を検討する方から「イギリスを選んで良かった点、悪かった点はなんですか」と聞かれることがしばしばあります。
そこでこの記事ではイギリス留学のメリット・デメリットを主にアメリカとの比較で紹介していきます。
あくまでも理系(生物化学系)の博士課程の話として、参考にしてみて下さい。
Contents
イギリス大学院留学のメリット
まずは利点から見ていきましょう。
指導が手厚い
アメリカの博士学生が研究室から学費や生活費を支給されているのに対し、イギリスの博士学生は基本的には研究室からの支援はありません。
そのため、学生は親が授業料等を払っているか、奨学金を活用して進学しています。
イギリスの学生はラボとの雇用関係がないため、研究が滞るからといってクビにされることはほとんどありません。
むしろケンブリッジの場合は、学生が中退すると指導教員に対して聞き取りやペナルティ(その後数年間、所属できる学生の人数が制限されるなど)があるため、PIは学生が卒業できるよう最大限の援助をします。
イギリスの大学ではチュートリアルが文化として根付いているため、教授と生徒が一対一で話す機会も頻繁にあり、そのことも面倒見のよさと関係していると思います。
私も入学前からチャットを使ってほぼ毎日指導教員とコミュニケーションを取っていただいたおかげで、研究計画をスムーズに固めることができました。
実際に私のラボで採用されている仕組みなどについてはこちらの記事で解説しています。

ビザで悩まされることが少ない
イギリスはアメリカと比べて移民政策の変更が少ないため(マイルドなため)、急にビザが止まるといったことにはなりにくいとされています。
2020年にコロナの影響でアメリカ政府行った「授業がオンラインだけになる学生にはビザを出さない」という変更は留学生にとってはなかなかの痛手なので、イギリスではそういった煽りを受ける可能性が低いことも一つのメリットです。
ただ、EU離脱もあったことですし、今後どうなるかはわかりません。
ヨーロッパのコミュニティに参加できる
ヨーロッパの研究者のコミュニティに参加できることがメリットになることもあります。(当然、アメリカにいれば北米のコミュニティに参加できます。)
私の場合は学位取得後もヨーロッパで仕事をしたいと思っているため、最初からイギリスで修行することに意義を感じています。
イギリスからフランスやドイツへ行くのも比較的安価なので、様々な場所に行って他の研究者と交流することができるのもいいですね。
カレッジ生活を送ることができる
イギリスの大学の特徴の1つがカレッジです。
ハリーポッターの世界のように、グリフィンドールやスリザリンといったカレッジに所属し、カレッジ内のメンバーと行動を共にする場合が多いです。
専門分野が違う友人と深く付き合えるのはイギリスならではの面白さだと思います。
医療費負担が小さい
イギリスも国民保険の制度が整っているため、診察・入院・手術などの費用は基本的にはタダで、薬代だけ定額でかかります。
その代わり、予約まで1週間~1ヶ月かかるので、よっぽどの病気でない限り自力で直す人が多いみたいです。
イギリスの病院のことはこちらの書籍に体験談があって参考になります。

ビザ申請の時に国民保険料の支払いもしたのですが、その具体的な金額などについてはこちらをご覧ください。

イギリス大学院留学のデメリット
続いて私が感じたデメリットをご紹介します。
出願時に役立つ情報が少ない
イギリスの大学院へ進学する日本人がそこまで多くないため、日本語で書かれた入試情報にアクセスすることが難しいです。
どういう境遇の日本人が、どのレベル感の大学から合格/不合格をもらったのかというのが見えにくいので、出願先の大学を決める基準がほとんどないと感じました。
それに対してアメリカのいわゆるトップスクールと言われる大学では、出願者の情報が多数公開されているので、自分だったらどのレベルの大学に受かるかというのがなんとなく分かります。
私は情報がなかったからこそ「ケンブリッジに出してみよ」とそこまで深く考えずに出願できたので、良かったといえば良かったです。
経済的に厳しい
上述のように大学院生は学費・生活費を自分でなんとかしなければならないため、アメリカよりも経済的には困難が多いです。
経済面が留学のネックになる方も多いと思うので、「何が何でもイギリス」という方以外は給与の出る国への進学が無難かなと思います。
ちなみに、イギリスでは学費が払えずに中退する学生も少なくないため、入学のタイミングでかなり厳しく財政状況はチェックされます。
そうして「ちゃんと払える」と判断された人だけが入学を許可されるようになっています。
ケンブリッジの場合は、大学とカレッジが独立に財政状況のチェックを行っています。
日本人コミュニティが小さい
困ったことがあった時には日本人同士で助け合うこともあるかと思います。
しかし、イギリスはアメリカと比較して、主要都市に住む日本人の総数が少ないため、自ずとコミュニティも小さくなりやすいです。
ケンブリッジに進学する日本人は、1学年10人にも満たないくらいです。
そのため、いざという時に頼れる人が少ないのはデメリットになることもあります。
うちの奥さんにも日本人のママ友とかができればいいなと思っているのですが、あんまり同世代の日本人女性もいなさそうです。
また、研究室にも日本人はほぼいないので、人間関係に困った時などには下記の記事を参考にしてください。

講義を活用して、体系的に学ぶことが難しい
アメリカでは最初の2年が講義中心で、後半3年で研究プロジェクトを進めるケースが多いのに対し、イギリスでは最初からプロジェクト中心になります。
そのため、座学で知識を蓄えるということができないので、採用の時点から即戦力の人材が求められています。
すぐに研究にとりかからないと3~4年で博論がまとまらないため、分野を変えての進学などはアメリカに比べて難易度が上がる傾向にあります。
結局、その学科の選考委員次第なのでなんともいえませんが、イギリスの博士課程に入るのであれば、そこで使う知識・技術は前もって習得しておくのがベターです。
ラボローテーションがない
アメリカでは2,3のラボを4ヶ月ずつくらい経験して、最終的にプロジェクトを行うラボを決めるという「ラボローテーション」が取り入れられていることが一般的です。
それにより自分の興味を広げたり、指導教員とのミスマッチを防ぐといった効果があります。
一方でイギリスではこの仕組みは聞いたことがなく、基本的には出願のタイミングからラボは決めています。
早くからプロジェクトを進められるという利点はありますが、入ってから指導教員と合わないことに気づいたらなかなか辛いです。
私の友人はそれでラボを変えていますが、イレギュラーな対応ですし、1,2年を棒に振る可能性もあるので、研究室選びは念入りに行う必要があります。
イギリスの大学院へ進学したい方は必ず事前にラボ訪問をし、指導教員の人柄や研究環境を確認しておきましょう。
まとめ
多くの方にとっては、イギリスよりもアメリカの大学院へ進学した方が経済的な苦労が少ないので良いと思います。
イギリス進学が向いている人は
・将来ヨーロッパで働きたい
・お金は問題にならない
・クビにされるリスクがいやだ
・即戦力としてすぐに研究ができる
といった条件に会う人だと思います。
どの国で学ぶかというのはサイエンスをやる上では本質的ではありませんが、自分の状況や価値観を鑑みて、留学先の選択に活かしてください。
僕個人としては素晴らしい指導教官やラボメンバーと研究ができるというだけで、イギリスを選んで正解だったと思います。