私の所属するケンブリッジ大学生化学科博士課程では、学期末が来るたびに、研究進捗の振り返りを目的として「Quarterly Progress Review」という書類を提出します。
定期的に自分の研究の進み具合を自己評価し、次にやるべきことを整理することで、適切な計画が立てられるようになります。
実際に私もこのフォーマットに記入することで思考を整理でき、プロジェクトをうまく進められています。
数年前に落合陽一さんが「論文を読みながら記入するフォーマット」を公開して話題になっていました。
その場合も、書いていくだけで、作業と思考整理を並行してやれるような工夫がなされているのだと思います。
Contents
フォーマット
実際のフォーマットには大学のロゴなども入っていて、そのまま添付すると権利の関係で問題があるかと思ったので、この記事内では中身だけご紹介します。
フォーマットは以下の6つのセクションからなります。
1. Student details
2. Project details
3. Current research questions
4. Progress
4-1. Research goals set in previous report
4-2. Progress and further comments
4-3. Training and development
5. Action plan
6. Supervisor’s report
分量としては全体で4ページほど書けるようになっています。
ここからは、各セクションで書くべき内容についてご紹介します。
1. Student details
このセクションでは以下の基本情報を記載します。
- 氏名
- 学籍番号
- アドレス
- 所属カレッジ
- コース
- 学年・学期
2. Project details
このセクションでは
- プロジェクトタイトル
- PTPメンバー(博士論文のアドバイザリーボード)
- Peer Research Group名
を記載します。
PTPやPeer Reserch Groupについても過去記事でご紹介しているので、ぜひ合わせて読んでみてください。

3. Current research questions
ここでは研究で解き明かすべき問いを定義します。
注意書きには
Please list the major experimentally answerable questions of your project that you are addressing
とあるので、「~の機構解明」などのようにざっくりとした問いではなく、例えば「AはBと相互作用するのか?」のように、Yes/Noで答えられる具体的な問いを列挙します。
実験的に検証可能な小課題をいくつも設けることにより、プロジェクト内の1つ1つのステップで検証ができるので、「実験が上手くいかなくてノーデータになる」という事態を避けられます。
また、最初からいくつか議論のポイントを設計することで、論文化をする際の流れのイメージも持てるようになります。
つまり、研究計画の解像度が上がるということですね。
私は各問いでYes/Noとなったそれぞれの場合について考えられる仮説まで書き出し、フローチャートにしています。
もちろんそこに収まらない可能性はいくらでもありますが、結果を見てから考え込むのではなく、事前に解釈の勘所を掴んでおくと次の一手が素早く打てると思います。
4-1. Research goals set in previous report
これは自分が過去に3のセクションで書いた項目を改めて記載します。
要は、過去の問いとその答えというイメージです。
フォーマットの評価者は過去の書類を遡って見てくれる訳ではないので、過去の小目標がどうであったかを記載し、現在の問いとの関係を整理しておきます。
「なぜ今学期にこの実験をしたか」を説明するつもりで書けば、この項目は自然と埋まると思います。
4-2. Progress and further comments
このセクションでは、その学期に行った実験とその結果について整理します。
レポートのメインのパートですね。
論文のResultほど詳しく書く必要はなく、その実験から何が言えるかという全体的な結果をまとめます。
のちのパートで指導教員からのコメント欄があるので、当然彼らはこのセクションを読みます。
指導教員との意思疎通を円滑にするためには詳しく書いた方が良いですが、私の学科では別の教授陣によって評価されるので、各データの詳細には踏み込んでいません。
自分の振り返り用として書く場合にはデータをパワポに貼って、図表と対応させて管理するのが良いでしょう。
また、各プロジェクトそれぞれの進捗を横並びで整理することで、どれが進んでいるのかや、今後注力していくべきものなどが見えてくると思います。
最後に、この学期の自己評価を「Excellent」「Very good」「Satisfactory」「Satisfactory with reservations」「unsatisfactory」から選びます。
これをつけることで満足度を自覚できますし、多くのメンバーを見ている教員にとっても各メンバーの状態が分かって良いと思います。
聞くところによると、会社などでも毎月こんな感じの状態チェックをしているところがあるそうです。
4-3. Training and development
この学期で新たに獲得したスキルを記述します。
学内でもTransferable skill trainingとしてバイオインフォの講習が開かれていたり、分析機器のレクチャーが行われているので、それらに参加して、できることの幅が増えた場合はそのスキルを書きます。
欧米では「skill development」という概念が強いなと感じ、(ほんのちょっとでも)何か身につけたらCVなどにも書いて、「できる」と主張するようです。
ちなみに、私の場合は「英語力が足りないやつ」として要チェックされているため、英語力向上のためにやったことも書くように言われていますw
自分でこのフォーマットを書く場合には「研究以外で獲得したスキル」なども入れると良いでしょう。
プログラミングや貯金などの成果も書いて見るとモチベーションがアップすると思います。
5. Action plan
このセクションでは次の12週間で行う予定の実験計画を記述します。
「12週間」というのが大事で、この期間内にできることしか入れてはいけません。
それを意識することで、計画の解像度が上がり、「このくらいは進むだろう」という無理な期待をしなくなります。
期限が限られているため、プロジェクト間の優先順位づけなどもこのセクションを埋めながら考えられると思います。
私の場合はこのセクションで詰め込みすぎる傾向にあり、指導教員から「本当に12週で終わる?」と聞かれています。
着実に進めるために、なるべくバッファーをとって余裕のある計画を立てましょう。
6. Supervisor’s report
最後のセクションは指導教員によるレビューです。
私のラボはメンバーが15人前後で、毎週1人がプログレスセミナーをするので、自分の番が来るのは3ヶ月に1回以下です。
そのため、日頃からこまめに指導教員と意思疎通をし、改善や軌道修正を測れるようにしています。
もしそれがないとこのレポートをみて初めて知らせることが多くなってしまい、有益なレビューを得られないかもしれません。
指導教員にとっても「今学期は頑張っていた」と思ってもらえるように、「日頃のコミュニケーション」&「このレポートでそれらのデータを分かりやすく見せる文章術」の2つを意識しましょう。
まとめ
研究は細かな試行錯誤をしているとつい、全体の流れを見失ってしまうこともあります。
そんな時に本流に戻ってくるためには、俯瞰的な情報整理が必要になります。
今回ご紹介したケンブリッジ式のフォーマットはどの研究分野でも活用できると思うので、時々それらを自分で書いてみて進み具合のチェックをしてみましょう。
きっと全体像がクリアになるはずです。
今回ご紹介するフォーマット以外にも、私の所属する大学院には研究を加速させるための仕組みがあり、別の記事(その先のUJAの記事内)で解説していますので合わせて参考にしてみてください。
