イギリスに来てから研究スタイルを変えたというエッセイです。
もし興味があれば読み進めてみてください。
研究に対する心構えを変えた
研究者は総合力が問われるとよく言われます。
探究心を持って深く調べられる人、
マネジメント能力が高く、チームをまとめられる人、
資金集めが上手く、研究環境をよく出来る人、
このように、様々な研究者をみてきました。
研究者にも様々なタイプがいるように、研究アプローチにもその人の個性があります。
基本的には「解きたい問い」と「仮説」、さらには「そこに辿り着くためのアプローチ」を設定し、検証実験を進めながら仮説が妥当であるかを評価していきます。
大学院生も含めて、職業としての研究者は研究成果を論文としてまとめて初めて、”仕事をした”という評価が下されるため、仮説検証で正解にたどり着かなかった場合にも、「少なくともAという可能性は否定された」という落とし所を見つけ、論文にする必要があります。
私は大学院修士課程のとき、論文にすることばかりに目が向き、肝心の研究対象にあまり興味を持てませんでした。
多くの研究者が満足のいくポストにつけないことを聞いていたので、論文を増やして研究者としての名をあげなければいけないという焦りからそうなっていたのだと思います。
ただ、現実問題として、修士課程で論文を書けるのは10%くらいの大学院生なので(生命科学系かつ観測範囲内で)、別に論文にならなくたってどうってことはありません。
良い先生なら、そのテーマを次の代の学生に引き継いで論文化に漕ぎ付けるかもしれませんし、論文化されなくても自分の中にスキルとして蓄積されるものもあるのでどっちみちプラスです。
論文化しようと焦っていたので、既存の論文にあるような実験の組み合わせを一通りやってデータを集めたものの「はて、これで何が分かるんだっけ」という状態になりました。
見た目は論文の図のようなのに、そこから何も面白いことを見つけられないことが不思議でなりませんでした。
それもそのはず、文章においても前の段落から次の段落への展開があるから面白いように、研究においても深掘っていくからこそ論文になるのです。
目的もなく、単にデータを集めただけでは研究にならないということを、その時強く実感しました。
そのことを反省し、”論文の形にする”という考えを捨てて、ある現象を見つけたらその背後にあるものを紐解くようなスタイルに変えました。
修士課程を出て、博士課程に入るまで1年間ありましたが、その中で得た気づきが、このアプローチの変更でした。
博士課程が始まってまだ1ヶ月なので、それによってどう変わったかはまだ分かりませんが、目一杯探究していけば、論文の形にまとめるのは自ずとできてくるのではないかなと思っています。
実験してなんぼ
博士課程に入って変えたことはもう2つあります。
その1つが「まずは手を動かす」ということです。
元来の面倒臭がりな性格から、なるべく省エネで一発でデータを取りたいという思考を持っていました。
しかし、科学研究では沢山の条件検討をして、初めて良いやり方が見つかることも少なくありません。
その労力を厭うべきではないなと思い、できる限り実験をするようになりました。
そう思えたきっかけは私が修士二年生の時に研究室に配属された、当時学部4年生のKくんのおかげです。
彼は配属直後から、毎日11時くらいまでみっちり実験をし、そのスケジュールもよく計画されていて、とても優秀な人でした。
最初は「あーあ、そんなに働いていつまで持つんやろうか」と斜に構えてみていましたが、Kくんは3ヶ月たっても半年たってもその生活を続けていて、完全に習慣にできていました。
しかも最初の数ヶ月で素晴らしいデータを出し、確実に論文になるところまで行っていました。
効率の面では私の方が良かったかもしれませんが、絶対量として彼のほうが3倍くらい実験していたので、もの見事に抜き去られていきました。
その出来事が大きな学びとなり、私もちょっとだけハードワークをするようになりました。
まぁ家族もいるので8時には帰ってきますが。
分からないことは細かく聞く
学年が上がるにつれて、「こんなこと質問したら恥ずかしいんやないかな」といらぬ心配が増えていました。
特に修士1年の頃にいた研究室は、ラボメンバーが各自黙々と自分のプロジェクトを進めている雰囲気で、あまり先輩や同僚に聞ける感じではありませんでした。
それに影響されてか、自分で調べてみて分からなければ、一回やってみるという癖が着いてしまって、聞けば避けられる失敗も沢山してきました。
その後、ある団体で新しいことを学ぶ機会があり、そこでは全くの門外漢だったので、先輩が「少しでも分からなければ、1つ1つ細かく確認して」と言ってくれました。
そのおかげで、分からないところを「まぁいいや」と思って進めずに、恥を捨てて聞けばすごく効率がいいということに気づきました。
今ではラボで質問しまくりの日々ですが、それによって成長の速度も上がったように思います。
何歳になっても分からなければ聞く、分からないままにしておくのが一番ダメ、と心の底から理解できるようになったのも、この1年間のギャップイヤーの収穫です。
いつか自分が学生を指導するようになった時には、学生の質問に細かく答えてあげられるようになりたいなと思っています。
最近ツイッターで「くだらない質問なんて1つもない」って言っている方がいて、すごくかっこいいなと感じたので、この気持ちを忘れないようにしたいです。
まとめ
博士課程で変えたこと
・研究を深く掘り下げる
・ハードワークをする
・分からないものは分かるまで聞く
研究においては全然自信がなく、まだまだ試行錯誤の日々が続いています(きっと最初の論文が出るまでこの感覚は消えないと思います)。
それでもこの記事で紹介した3つのポイントを博士課程では実践して、やりがいのある日々を送れています。
論文が出ないと死ぬような恐怖感さえ覚えますが、極論、研究も”仕事”なので、日々の生活を楽しみつつ、淡々と続ける必要があると思っています。
今いるラボでは博士3,4年目に論文を書くので、まだまだ先は長いですが、研究そのものを楽しんで、探究を続けたいと思います。
それではまた!