研究・植物の話

【書籍要約】シリーズ群集生態学2-進化生態学からせまる-

おまつりけばぶさん(@kebabfiesta)が大学院生応援企画として、「今月読みたい専門書技術書」という企画を開かれていたため応募をさせていただき、普段なかなか手に取らない分野について学ぶ機会を得ました。

http://festakebab.hatenadiary.com/entry/2020/04/05/190425

いくつか読みたい本がありましたが、中でも最近は「進化」に興味を持っていることから、進化と生態学の融合を試みた「進化生物学からせまる (シリーズ群集生態学)」を選びました。

生物学をかじっている人なら「進化」と「生態学」の組み合わせには違和感を覚えると思います。何故ならば進化は過去と現在という縦の時間軸に視点を向ける生物学で、生態学といえば現在の時間スケールにおいて生物間の相互作用を捉える横の軸の生物学と捉えられていたからです。本書ではそこをあえて融合させてみようという意欲的な試みを、生態学の科学者がそれぞれの研究に関連した6つの角度から行なっています。

本記事ではそのアウトプットとして、書籍を要約し、生態学に馴染みのない方にも楽しんでいただけるようにまとめました。

第1章: 適応による形質変化が個体群と群集の動体に影響する

生物は他種との相互作用により、その行動を変化させ、不適な環境をうまく乗り越えていくことができる。種間相互作用のあり方を適応的に変化させることで、生物群集における種間相互作用はきわめて柔軟なものになりうる。その原因となる行動変化は「学習」「表現型可塑性」「進化」の3つのパターンに大別できる。表現型可塑性、進化については次章以降で繰り返し述べられるので、ここでは学習について議論する。

学習は過去の経験の帰結から将来を予測し、行動パターンを変化させることである。摂餌・防御・繁殖など、生物の適応度に影響する行動形質は数多くあるが、それらがどの程度学習を通して過去の経験に依存しているのかはよく分かっていない。

学習による行動形質の変化の一例として、ヘラジカの捕食者に対する行動が知られている。捕食者であるクマやオオカミのいない地域で育ったヘラジカは、捕食者に対する警戒や捕食者がいる餌場の放棄といった行為があまり見られない。しかし、そのようなヘラジカが捕食の危機を経験すると、捕食者の匂いや鳴き声に反応して、捕食者に対する逃避行動が活発になる。

このような適応的な学習は、脳がよく発達した脊椎動物だけでなく、無脊椎動物にも見られる。例えばバッタは餌のある場所や餌の色や味を学習することにより、より栄養価の高い餌を選択することができ、その結果、成長速度が早くなるという。

学習が短期的な増殖速度に与える影響は調べられているものの、個体群動態のパターンをどう変えるかといった長期的な影響はまだ調べられていない。ただ、学習に重要な役割を果たす脳が個体群の短期的な現象に影響することは知られている。鳥の種間比較により、脳のサイズの大きい鳥の方が、新しい環境への侵入成功率が高いことが報告されている。

第2章: 適応と生物群集を結ぶ間接相互作用

生物の間接相互作用には居住空間の占領などのような「密度介在性の間接相互作用」と、ある生物Aからの影響により、生物Bが形質を変化させて生き残る「形質介在性の間接相互作用」の2つが存在する。前者は生物の生死に直接的な影響を与えるので、遺伝子頻度の差を生じる”従来型の進化”で説明がつく現象であり、後者は表現型の可塑性を利用した”新しい枠組みの進化”で説明される。ここでは後者について具体例を挙げる。

種間相互作用が生み出す進化の例として「共進化」があげられる。有名な例では北アメリカのセイタカアワダチソウにできるミバエの虫こぶの大きさと、その寄生バチの産卵管の長さについての研究がある。

ミバエと呼ばれるハエは、卵をセイタカアワダチソウという植物に植え付ける。植物ホルモンを撹乱することにより、植えつけた卵の周辺をコブ状の組織にし、卵から孵った幼虫が餌を摂取しやすい環境を構築する。ここでは植物にできたコブをミバエの”延長された表現型”と解釈する。

その幼虫を狙うのが寄生バチである。寄生バチは尾部に産卵管という針状の器官をもち、コブに産卵管を差し込むことでミバエの幼虫に寄生する。ミバエが生き残る方法はただ1つ。寄生バチの産卵管が卵に到達できないくらい大きなコブを作るように、植物を撹乱することである。

ただ大きなコブを作るだけであれば話は単純なのだが、そうはいかない。コブを大きくしすぎると目立つので、今度は鳥の標的になってしまう。鳥は大きなくちばしで虫コブから幼虫を掘り出して食べてしまうのだ。そのため、中くらいの虫こぶを作るように安定化淘汰が働く。

さらに面白いのが、場所によってこの共進化の仕方が異なるのである。森林地帯であれば上記のような安定化淘汰が働くが、鳥のいないプレーリーではコブを大きくしておけば寄生のリスクを回避できるので、ミバエが作る虫こぶはどんどん大きくなってゆく。また、寄生バチの産卵管はどんどん長くなっていく。種間の相互作用の仕方が変わることで「安定化」or「軍拡競争」のように生態系の進化の方向が変わっていくのである。

今回は比較的シンプルな構造であったが、おそらく種間相互作用が進化に与える影響はもっと複雑で長い時間スケールの中で起こっている。測定技術の進歩により生態系が生み出す進化の駆動力がさらに解明されることが待ち遠しい。

第3章: 生物群集を形作る進化の歴史

これまでに地球では5回の大規模な絶滅が起きたことが地質記録から分かっている。科学者の中には「大量絶滅が生物間の相互作用によって起きたのではないか」と考えた者もいた。つまり、1つの種の絶滅が連鎖反応的に他の種の絶滅を引き起こすという可能性である。実に興味深い仮説である。しかし、現在ではこの仮説は否定されており、絶滅の原因は隕石の衝突や気候変動のような地球内部と外部のダイナミクスによる可能性が高いと考えられている。

大量絶滅後には生き残った生物が開いたニッチに拡散する。そのため、残った生物は、回復した生態系の構成要素を大量絶滅以前とは大きく変える役割を果たす。大量絶滅を引き起こす物理的な変化は、(一般に)生物の特性によらずランダムな絶滅を引き起こすため、過去の5回の大量絶滅後に反映した生物のグループも異なっていた。最後の大量絶滅は恐竜時代の終焉を引き起こした隕石の衝突であり、そこで生き残った哺乳類の祖先が現代の生態系の骨格になっている。生態系に大量絶滅のような大きな力が加わると、積み重ねられた進化の歴史を大幅に書き換えるような効果が生まれるのである。

次に、群集の進化が絶滅に与える影響を考える。前章で共進化を行うことで他の生物との競争に打ち勝つことを見た。反対に、共進化によって依存関係を強めることもある。モーリシャス諸島のドードーが、人間が島へ上陸したことで絶滅したのは有名である。実はモーリシャスにはドードーに食べられることによって発芽できるようになるアカテツ科の植物がいた。この植物はドードーとの協力関係を強めたことによって、ドードーの絶滅とともに同じ道を辿ったのである。

さらに種内の適応進化が、結果としてその個体群の絶滅を招くこともある。この現象はevolutionary suicideと呼ばれる。例えばメスのメダカは大型のオスを好むため、小型で繁殖力の大きなオスのメダカよりも、遺伝子導入されて大きいが繁殖力の小さなオスのメダカに強い旋光性を示す。メスが大型のオスを好む性質が維持される限り、メスの平均産卵数が減少し、個体群サイズが現象して絶滅が起こりやすくなるのである。このように、適応の方向性と個体群の安定性の間に矛盾を抱える場合もある。

上記のように、地球科学的なイベントによる生態系の縮小・拡大、種間での関係性、種内での選好性はいずれも進化に大きな影響を与える。これまでば形質の進化のしやすさしにくさを定量化することが難しかったため、代表的な例でのみ議論してきたが、近年ではある変異に関する遺伝的・発生的な制御機構が解き明かされつつある。今後、遺伝子レベルでの影響の理解が深まると、これまでの進化の過程をより理解できるようになるであろう。

第4章: 多種系における表現型可塑性

第4章では表現型可塑性の例としてオタマジャクシがヤゴとサンショウウオから受ける影響を取り上げ、その分子基盤を考察している。

まず、北海道にいるエゾアカガエルのオタマジャクシはヤゴとサンショウウオという異なる天敵に備える必要がある。サンショウウオはオタマジャクシを丸呑みにするので、オタマジャクシは近くにサンショウウオがいることを検知すると急速に頭を大きくする。これを膨満形態と呼ぶ。一方で、ヤゴの脅威にさらされたオタマジャクシは尾に高さが出る。これを高尾形態と呼ぶ。一度に両方の形質を発達させられればどちらの天敵にも備えられるが、リソースに限りがあるので環境の変化に応答してどちらかの形態を取るように進化した。このように誘導防御にバリエーションがあることがまずは興味深い。

次に、これらの誘導防御は遺伝子の発現調節によって起きていると推測される。生物は全ての体細胞にゲノムと呼ばれる「一揃いの遺伝子セット」を持つが、その中で活発に働く遺伝子を変えることで機能分化を果たしている。例えるならば、ゲノムを1冊の本とすると、それぞれの細胞で開いているページが違うのである。著者らは膨満形態のオタマジャクシでのそれぞれの遺伝子の発現強度から、通常形態での遺伝子の発現強度を差し引くことで、防御誘導時に発現量が変化している遺伝子を見出した。それらの傾向を分析することで、膨満形態では繊維素溶解に関連した遺伝子の転写が抑制されており、反対に細胞間接着に関する遺伝子の転写が促進されていると推察した。

このように種間相互作用の結果、遺伝子の発現調節に変化が生じる場合がある。ちなみに進化の駆動力となる分子的な変化は「アミノ酸置換」「塩基の挿入・欠失」「発現調節機構の変化」の3つと言われており、相互作用によって変化するのは3番目のものだけである(1, 2番目のものは突然変異として起きる)。次世代シーケンサーの開発により遺伝子の発現が安価に網羅的にプロファイルできるようになってきたので、より多くの生物でその仕組みが解き明かされることに期待したい。

第5章: 共進化の地理的モザイクと生物群集

共進化と群集の構造の間にはどのような関係があるのだろうか?その謎を解き明かす鍵は「地域間で共進化の進み方が異なる」という現象にある。第5章では共進化の地理的なモザイク構造と、生物群集の間にみられる構造の違いを同時に捉えることを目的とする。

共進化の地理的モザイク説は1990年代半ばにJ.N.トンプソンによって提唱された。2章でみたミバエ、寄生バチ、鳥の関係が森林地帯に特有のものであり、プレーリーでは鳥がいないため進化の方向性が変わることをみた。これが共進化の地理的モザイクの一例である。

より細かな解像度で調べた研究として、ツバキシギゾウムシという昆虫とヤブツバキの関係が挙げられる。このゾウムシはツバキの実に口吻を差し込んで種子を食べる。そのため、ゾウムシの口吻の長さとツバキの果皮の厚さの間で共進化が起こりそうだと予想が立つ。著者らが標本資料などを使って日本全国の個体を調べたところ、やはりツバキの果皮の厚いエリアではゾウムシの口吻も長くなっていた。

そもそもなぜ自然淘汰の地理的モザイクが生じるのであろうか?この問題に取り組むためには「遺伝子型Ax遺伝子型Bx環境」の相互作用という概念を用いる。つまり、種Aの適応度は自身の遺伝子型だけでなく、相互作用する種Bの遺伝子型、さらには環境にも影響を受けて決定されることを意味する。

さらに自然淘汰のモザイクを生じさせる環境要因は「生産性(資源量)」であると言われている。資源の多い地域ほど被食者が増える。すると当然のことながら捕食者が増え、淘汰圧が強まる。このようにして軍拡的な共進化がより生じやすくなると言われている。

まだまだ地理的モザイク説と生物群集の間を埋める知見は少ないが、そのきっかけとなる考え方を著者は提示している。それは「群集生態学」「共進化研究」「遺伝学」を統合することである。学問の統合というと抽象的でわかりにくいが、分子マーカーを導入することで分布の変遷を明らかにしたり、適応進化に関わった遺伝子を同定したりするように、従来の生態学に分子生物学を移入するような試みを指す。それによって個体群や群集の動態に関する新たな仮説を提起し、多角的な検証を行うことができるようになると期待される。

第6章: 生物群集の進化

第6章では群集の進化を考える上で系統学的な視点を導入する。分子系統樹とは生物のもつ遺伝子配列の類似度に基づいて、どの程度近縁か遠縁かを推定する手法である。系統学的な研究により、革新的な生態形質を獲得した系統群(似た生物のグループ)は、古い形質をもつ系統群に比べて急速に分化し、多様化したことが分かってきた。群集の進化とは系統淘汰のプロセスとも考えることができる。ここでも地理的な視点と組み合わせて、「系統の違いとニッチの違い」、「系統の違いと分布の違い」を考察することで群集進化に新しい知見をもたらすことができる。

生物の繁殖様式には一般にオスとメスの営みが必要な有性生殖と、分裂や枝分かれのような無性生殖がある。無性生殖は1個体から増えることができるので安定した環境であれば増殖のペースは早い。一方、有性生殖は性を分けてメスからしか子供が生まれないので単純計算でも生殖のチャンスが半分になる。しかし、その利点は遺伝子を半分ずつ混ぜ合わせて、多様性に富んだ子孫を残すことにある。病気の蔓延が起こると同じ遺伝子型からなる無性生殖個体は全て死んでしまう。多様性に富んだ有性生殖個体の中には抵抗性を持つものが現れる可能性があるので、そこから系統群を展開することができる。このように系統内の自然淘汰では不利な性質が、系統間の系統淘汰で有利になる場合がある。

生物の適応を説明するメカニズムの大半は、もちろん種内の自然淘汰であるが、それだけでは説明がつかない現象もある。それらは系統淘汰によって説明される。1つ目には系統が分岐するか、あるいは生き残るかどうかが小進化のプロセスとは無関係に決まることである。これは先の生殖様式の違いのように、一見適応的な性質でも系統の存続には逆の影響を与えることがあることを思い出してほしい。2つ目に系統淘汰が進化を駆動するモーターの役割は持っていないにも関わらず、群集パターンの決定に大きな影響を与えることである。つまり、「適応的だから繁栄できる」というダーウィンの思想の反例になるような群集パターンも見られるということを言っている(と思われる)。

系統学的なアプローチに基づいて進化の方向性を予測する研究もなされている。系統樹を書いたときに姉妹群を比較し、どの系統群で多様性が高いかを評価する。厳密には多様化率というパラメーターを計算し、その値が高い系統群ほど種分化率が高いという仮定をする。つまり、多様化率が高い系統群ほど絶滅しにくいと考えるのである。ネズミやコウモリを題材にした研究から、「体サイズの小型化」や「高い移動率」などが多様化率を上昇させる要因になることが分かっている。

まとめ

「シリーズ群集生態学2-進化生態学からせまる-」を読んで生態学の見方がまた変わりました。実は「生態学すげぇぇ」となったのは2度目で、1度目はこの本の第1章の著者である近藤倫生先生が東北大に来られて講演を聞いて話をした時です。近藤先生は現在は環境DNAという新たな領域の開拓をされています。川や湖のような環境で水を採取し、そこに含まれる生物の痕跡から、どの種がどのくらいいるかを測定する技術です。手法は今話題のPCRを用いたものなので低コストに行えるという利点があります。そのため時系列で変化を追いやすく、生態系のモニタリングに期待を集めています。

環境DNAや本書で見た生態学の新たな枠組みのように、技術の発展と共に分野の垣根を超えて調べられることが増えてゆきます。かつてドブジャンスキーが「Nothing in Biology Makes Sense Except in the Light of Evolution (進化の視点から生物学を捉えなければ、何も意味をなさない)」という言葉を残したように、現代の生物だけを切り離して捉えることはできません。そこには生命の誕生に始まる長い長い物語が潜んでいます。私は”蛋白質の進化”というもっと小さなスケールの進化を専門としていますが、今後も群集という大きな階層の進化にも注目していきたいと思います。